20160828

言葉の背後にあるもの—「奥さん」「ご主人」という呼称

「奥さん」と呼ばれるのにも、相方を「ご主人」と言われるのにも、さすがにもう慣れました。他に使いやすい言葉がないので、まあ、仕方ないかな、と思っています。

(初めて読んでくださっている方へ補足:私と相方は人生のパートナーどうしですが、日本の法律婚という形式では苗字を変えないといけなかったり、不便が多いのもあって、しっくり来ていないために契約書を届け出ていません[過去にくわしく書いた記事:おもっていること]。東京にいたころは両方とも名前で呼ばれるか、「お連れ合い」「いつも一緒にいる方」などと言われることがほとんどだったのに、香川に来てからは相方(男)だけが名前を聞かれてあとは「奥さん」「ご主人(または旦那さん)」と呼ばれるのが大半になったのが軽くカルチャーショックでした。今は移住して数年経ったので慣れてきたという状況です)

ありがたいことに、相方さんと呼んでくれる人もいるし、ちゃんと名前で呼んでくれる人もいます。私と相方が、お互いを「相方、相方」と言っていたら、自分のパートナーを呼ぶのに相方を使うようになった人もいます。東京から地方へパートナーと二人で移住した友人は、移住にあたって、「田舎だと籍を入れていないといろいろうるさく言われるかも」と思って、入籍したと言っていました。それを考えたら、いちいち、籍を入れているかどうかと聞いてこないだけ、香川の人は田舎のわりにはおおらかだと思います。

だんだん慣れてきたら、「奥さん」と呼ばれても、相方を「ご主人」と言われても、音としてしか認識しないで済む人もいるし、私の知性や能力やアイデンティティに敬意を払ってくれているのを感じる人もいます。仲良しで対等な関係の友人夫婦が他の夫婦について「奥さん」「旦那さん」と言うのも全く嫌な感じがしません。

「すっかり慣れたのかな」と思っていたのですが、先日、久々に不快感を覚えました。

相手は、香川の人ではなく、関東からの移住者の人で、相方と一緒にいるときに1度会い、2度目は私が一人でいたときに会った方だったのですが、2度目に会ったときに、私を指すのに「奥さん」、相方を指すのに「ご主人」を用いました。その発言に久々に強く反応してしまって、「最近は全然なんともなかったのに、どうしたんだろう?」と思って、後になってよく考えてみると、相方の仕事についてはいろいろきくのに(相方の人間性とか考えとかはどうでもいいみたい)、私には子どもの有無しかきかなかったので(ほぼ初対面で子どもの有無を聞くのも不躾で本当に嫌い)、男が外で働いて、女は奥にひっこんで子どもを産み育て、家事を切り盛りする、といった、よくある古い固定観念がこの人にはあって、その固定観念が言葉に反映されていたために、それに反応したんだと思いました。

「奥さん・ご主人症候群」がまた復活してしまったのだろうか?と不安に思っていたのですが、それからひと月ほど経ってから、相方と付き合いのある香川の年配の男性に、「奥さん」と言われたときは、全く気になりませんでした。

相方に、「なんでやろ?」と聞いたら、その男性は、自分のパートナーをものすごく尊敬しているのだそうです。「tom-tomが翻訳とかの仕事してるのも知ってるから、知性のある人間やと思ってるで」という。それで全く不快感を覚えなかったみたいです。

その言葉を発している人の、その思考が反映されたものをキャッチしてしまっているようです。なので、「奥さん」「ご主人」「旦那さん」というときに、ただwifeとhusbandの意味で発している場合はそれほどなんともないのですが、古い男女差別の固定観念を持っている人がその言葉を発しているときは、ひどく不愉快を感じてしまう。そういうことみたいです。

「ご主人」って、言葉として文字通りに考えたら、私は相方の奴隷とかペットじゃないんだから、って感じです。飼われてるわけじゃない。飾り物じゃないのです。れっきとした人間です。私の主は私でしかない。相方の主も相方でしかない。相方が私のご主人様になって私の生命維持の責任を持つ代わりに自由を拘束するなんていうのはいつの野蛮時代だよって話です。日本語には今のところ、「ご主人」「旦那さん」くらいしか一般的な言葉がないので、まぁ、仕方ないんですけどね。

「奥様」「奥さん」という言葉は、丁寧な呼称だというのはわかっていますし、通じなさそうな相手には私も仕方なしに、「奥様」と言ったりします(パートナーと言ったら、「なんてぇ?なんや、奥さんのことかい」みたいに言われたことも・・・。横文字にアレルギーのある人もいるので要注意です)。

でも、「奥様」「奥さん」という言葉ができた経緯を振り返ってみると、江戸時代に殿様が城の中の「大奥」と呼ばれる奥の部屋に女たちを囲っていて、そこにいる女性のことを「奥の方」と言っていた、それが身分の高い男の妻を呼ぶ「奥様」「奥さん」になり、現代は丁寧語として定着するようになっています。

こうした背景から、「奥様」「奥さん」と呼ばれるとき、私の知性や能力や個性はどうでもよくて、かわいらしさと美しさで男を飾ることで外では夫の評価を高め、家の中では男を喜ばせ、期待されるのは料理の腕と家事をてきぱきとこなす能力と、子どもを生み育てること、という、長年しみついてきた思考が襲いかかってくる感じがあるのです。何も考えてはいけないような、相方のサブでおまけで、影で支える存在でいなければならないというような、強迫観念にとらわれることもあります(相方は全くそれを望んでいない)。

男性だけではなく、女性のなかにも、そういう固定観念を当然のこととして私に向けてくる人もいます。自分がそういうふうな扱いを受けているから、人にも同じ苦しみを味わわせたいのかもしれません‥。香川にずっと住んでいる女性で、意見や考えを表明しても女だからときちんと聞いてもらえないことが続いたせいか、男がいる場面ではもう押し黙るようになった女性の話も聞きました。その気持ち、ものすごくわかる気がします。

もはや江戸時代ではないのですから、そろそろ、もっとまともな対等な呼び方が広まって欲しいものです。

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