20160405

全部わかってから何か言おうというのでは手遅れになる。

【旧暦如月廿八日 清明 初候 玄鳥至(つばめきたる)】

先日、「社会のことを考えるのに、どうして専門家である必要があるの? モノ言う凡人で何がわるいの?」というタイトルの記事を書きました。

私は何でもすべてをわかっているわけではありません。いずれは、全部わかるようになって、何を聞かれてもぱっと答えられるようになりたいと思っていますが、いろいろな問題に気がついたのはつい数年前のことですから、まだまだ勉強の途中です。こんなに変化が激しく、情報が溢れている時代にあって、すべてを知るなんて、死ぬまでにもできるのか定かではありません。

ちょっと前までは、全部わからないと意見を言ってはいけないような気がしていました。でも、それでは間に合わないと思うようになりました。今、わかっている範囲で、「これっておかしくない?」って、わかっている範囲で、最善の解決策を考えて、提示していかないと、間に合わないのではないでしょうか。

それに、隅から隅まで全部わかっていなくたって、今ある情報を考え合わせた結果、私はこう思う、というのを明らかにしていれば、もっと情報を持っている人が、補足してくれたり、私の詰めの甘いところを明白にしてくれたりして、解決策の提示をより早く、よりよいものにしていくことができます。

今の世の中、「なんか変だよね?」と思っている人はきっと結構いるのではないかと思います。でも、まだ全部はわからないから何も言わない。そういうことでは、結局、確信犯で騙そうとしている人たちに、流されてしまう人が多くなってしまうだけで、何も変わっていかないと思います。

わかるまで何も言わないでいたら、どんどん私の望まない方向に、この世界は突き進んでしまう。

数年前、消費税が増税されるかもしれない、という話が出てきたとき、知人と消費税増税の話題になり、私が「法人税はどんどん下がっているのに、消費税を上げるというのはどうなんだろう?税金は富の再配分のためにあるのに」と言うと、知人は、「法人税を上げてしまったら、海外に企業が逃げてしまって、職がなくなるから困る」と言いました。

私はそのとき、
「もうすでに生産拠点は海外にどんどん出て行っているよね? 法人税下がっても生産拠点は海外から日本には戻ってきてないよね?」

「法人税って本社がある場所でどこの国の税制に従って支払うかが決まるんじゃないの? 本社が海外に移転する日本企業って出てくるんだろうか?」

「カネがあって外国に逃げていける大企業には税金を高くできなくて、カネがないから逃げられない国民には消費税を上げていいって、道理があるんだろうか?」

「企業の内部留保は増えているっていうし、企業は税金もうちょっと払えるんじゃないの? なんで生活の苦しい人からとる税金を上げないといけないの?」

「企業は税金を節約して、貯めて、どうするんだろう? 雇用も増やしてないよね? 企業って何のために存在しているんだろう?」

など、いろいろな疑問を持ちました。

当時、確かに、大手メディアでは知人の発言にあるような論調が時折見られていました。法人税を上げると、国内産業の空洞化が起こり、雇用が危うくなる、と。

私は、まだそのとき、すべてをわかっていないから物を言ってはいけないんじゃないかと思って、これらの疑問を飲み込んでしまいました。

でも、今思えば、聞いてみればよかったと思うんです。もしかしたら、知人は、メディアに疑問を持ったり、自分でももう少し調べてみようかな、考えてみようかな、と思ったりしたかもしれません。

そういう人が増えたら、選挙に行く人も増えるだろうし、自分で考える人も増えると思います。

仮に、私が全部わかって、何を聞かれても怖くない状態になってから意見を言うようになったとして、私に噛みつかれるのが怖くて、私が気に入りそうな意見を持つ人が増えても、最終的な解決にはならないと思います。そういう人たちは、自分で考えて決めているのではなくて、簡単にすごそうな人の意見に流されてしまうので、すごく不安定だからです。

自分で常に考えて決めていく人を増やさないことには、この世の中は根本的には変えられないと思います。今井絵理子さんの会見を読んでも思いましたが、まわりの意見に流されるのではなく、まわりの意見を参考にしながら、自分の頭でよく考えることができなければ、戦争反対が戦争賛成に簡単にすりかわってしまうのです(ちなみに、今井さんが、人柄に感銘を受けて自民党からの立候補を決意したという山東昭子さんという方は、甘利明経済再生担当相の金銭授受疑惑を告発したメディアを「ゲスの極み」と呼んだお方です)。今井さんは、昨年の夏には安保法案に反対するような発言をツイッターでされていたので、まさか、国民の反対を無視して安保法案を強行採決し、平和憲法の解釈改憲もゴリ押しして、アメリカと戦争ができる国に日本を変えようとしている自民党からの立候補を決めてしまうなんて、初めて聞いたときは何かの間違いなんじゃないかと思いました。本当に悲しい驚きでした。

私は、私が言うことをまるごと信じてほしいというのではなくて、私の意見をきっかけにして、自分の頭で考える人が増えてほしいと願っています。まだ勉強途中の私の意見を読んで、まだ考えの足りないところを見抜いて、さらにそこからご自身で考えて、ご自身の意見を形成して、私にも共有してもらえたらいいなぁと思います(攻撃は何も生まないので、ケンカは売られても買いませんが…)。

仮に、私が何もかも知ったとしても、人間であることには変わりがないので、間違うことだってあると思います。そういうときに、私の意見に染まるのではなくて、それぞれ多様な意見を持っている人がいてくれれば、ひどい誤りを犯さずにすむと思います。

わからなくても、今持っている材料のなかで、ベストだと思える答えを出していくのが大事なことだと思っています。全部わかってから、と思っていると、手遅れになります。だって、憲法の根本をわかっていない安倍首相が憲法に手をつけようとしているんですからね…。そして、そうやって今あるなかでベストと思える答えを出していれば、自ずと、足りないデータなり、事実なりがはっきりしてきます。そうして明らかになった、足りないものを補っていく、さらに勉強を重ねていく、その積み重ねで、自分の思考力も、世の中も、だんだんと良くなっていくのだと思います。