20180814

SNSがリアルにも侵食してきた現代で

フェイスブックをすっかり退会したのが2016年の12月末。1年半とちょっとが過ぎた。不便だったらまた再開しようと思っていたが、今のところ、メリットのほうが大きい感じがしている。

友人や知人の近況はわからなくなったけど、直接会って話したり、メールや手紙で直接やりとりしたりするような内容は、SNSのように、大勢に見えるような場所には書かれていない。ブログを書いている友人の記事はときどき見ている。SNSの投稿だと、身近な他人の目を気にして演出や自主規制が働いて、本当に思っていることや感じていることが見えないことが多いが、ブログだともう少し、本人の本当の言葉に近いものが読める感じがする。SNSのように、相手の領域にぽこんと飛び込むのではなく、ブログなら本当に関心のある人が自分のタイミングで見に来てくれるから、というのが大きいかもしれない。数は少なくても、メールや手紙、直接の会話などで、友人や知人との交流は十分で、本当に連絡する必要があれば、どうにかして連絡をくれるものだとわかった。SNSをしていたころよりもさみしさが減ったような気がする。

お気に入りのお店のイベント情報などは、一般公開になっているので、フェイスブックに登録していなくても見ることができる。新しいページを読み込むたびに、入会を勧める広告が大きく表示されるのがうっとうしいくらいで、だいたいの情報は見ることができる。インスタグラムで情報発信するお店もかなり増えてきたが、こちらも登録しなくても見ることができ、フェイスブックと違って入会を勧める広告は出てこない。

「いいね!」してくださいという煩わしい誘いも、「使っていないので」の一言でかわせるようになってすっきりした。

しかし先日、そうもいかないケースに遭遇した。ハーブティーやエッセンシャルオイルなどを販売している生活の木に行ったときのこと。その店舗には、苦手な厚かましい店員さんがいる。やけに話しかけてきて、ずっとついてまわり、話し相手をしていると必要なものを見つけるのに時間がかかってしまう。店員さんにしかわからないことなら教えてもらってありがたいのだが、ラベルやポップに書いてあること以上のことは言わない。私が自分の目で見てわかることしか言わない。

この店舗の店員さん全員がこういう感じというわけではなくて、「何かお探しですか」と言われて「自分で見つけられるので大丈夫です」と断ると「ゆっくりご覧ください」とそっとしておいてくれる人もいる。在庫の有無や再入荷時期など、店員さんに聞かなければわからないことはちゃんと聞くので、ラベルやポップに書いている以外で私が必要としている情報を話せないのなら、そっとしておいてほしい。

この厚かましい店員さんがいるときは「また今度…」と素通りして、いないときに買い物をするようにしているのだが、先日、いないと思って買い物をして、別の店員さんにレジでお会計をしてもらっていたら、突如バックドアから登場した。どうも、会計をしてくれていた店員さんは入ったばかりの人らしく、レジのやり方を教えながら一緒にレジに立つことになっていたようだ。

「まあ、買い物の邪魔はされなかったからいいか…」と思いきや、買ったものをかばんに入れて帰り支度をしているところへ「お客様、フェイスブックはお使いですか!」と来た。レジの横に、フェイスブックとインスタグラムのロゴが並び、「SNSはじめました!いいね・フォローをお願いします!」と書かれたポップがあったのは目に入っていた。「(フェイスブックもインスタグラムも)そういうのは使っていないんで」といつものようにお断りすると、たいていはここで「そうなんですね」で終わる。

しかし、この人は違った。「どうしてですか!登録したりするのが面倒くさいんですか!」。個人では「なんでこんな楽しいものをやらないの?」という感じで聞かれたことはあったけど、店員さんにまでやらない理由を聞かれたのは初めてだった。

この厚かましい店員さんの希望は、私が生活の木のフェイスブックページに「いいね!」を押して、インスタグラムをフォローすることだろう。そして、常に生活の木の情報を浴びさせたい。定期的に接触をもたせ、モノを買ってほしい。端的に言えばそういうことだと思うが、なぜ、そのためにわざわざ使っていないSNSに登録しなければならないのか。登録さえ面倒くさい奇人扱いされなければならないのだろう…。これにはさすがに、最初1人でレジをしてくれていた入ったばかりの店員さんもちょっと引いているように見えた。

理由まで答えないといけないものかなぁと疑問に思いつつ、「煩わしいことも多いので」と答えると引き下がってくれた。お店の宣伝ツールとして活用したいのはわかるけど、面と向かって「いいね!」やフォローを求められるのも、SNSの煩わしさの1つになってしまった。

逆に、お客さんから「フェイスブックやってないんですか」「インスタやってないんですか」と言われることも多いようだ。ブログやウェブサイトなどで情報発信をしているお店の人が、お客さんからSNSで発信してほしいと言われて困っていそうな様子を何回か見聞きしたことがある。

例を挙げると、ブログでお店の情報を書いているうつわ屋さんが、「フェイスブックやってないんですか?とよく言われます。最新情報はブログでお知らせしています。SNSはインスタのみやっていますが、コメントへの返信はお休みしています」とブログに書いていたことがあった。

ブログに最新情報を頻繁に更新しているのだから、ブログを見に行けばいいだけなのに、なんでSNSをやらせたいのだろう。検索したり、ブックマークからサイトに飛んだり、URLを入力したりして、自力でたどり着くよりも、流し読みしているタイムラインにぽこんと飛び込んでくれるほうがラクだからなのかもしれない。

お店を1人で切り盛りしている人は、在庫の管理や仕入れ、売上の計算や帳簿つけ、そうじ、陳列、お客さんとのやりとり、作家さんとのやりとり、ネットショップ(もある場合は)への商品の掲載、商品を紹介するポップ作成…ちょっと想像してみるだけでも、かなりたくさんやることがある。ここにさらに、複数のSNS(フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなど)での情報発信とコメントやお問い合わせへの返信が入ってしまうと、重要なことに割ける時間が大幅に減ってしまう。スマートフォンを持ち始めた年配の男性が、「メールと電話だけでもモリしきれんのに、フェイスブックやらなんやらワヤになるよ」(メールと電話だけでも相手にしきれないのに、フェイスブックやらいろいろあるともうわけがわからなくなる、という感じ)と言っていたのを思い出す。

スマートフォンの普及に伴って、SNSのユーザーは急増したように思う。インターネットは難しい、と思っていた人たちが、操作の簡単なスマートフォンでインターネットが簡単に使えるようになり、検索したりしなくても、テレビでチャンネルをあわせるように、誰かをフォローしていれば常に自分の興味や関心を満たす情報が流れてくる。いい面もあるだろうけど、情報に受け身なまま、SNSのとりこになってしまっている人も多いし、インターネットの利用にまつわるさまざまなリスクを理解せずにマナーをわきまえていない人も増えた。

リアルとオンラインの世界はこれまでは結構ばっきりわかれている感じがしていたけど、最近はかなりリアルにまで侵食してきた感じがする。心地よい距離を保つのが難しくなってきたと思う。

相手を多少不愉快にしてでも、自分のエネルギーやお金、時間の使い方は自分でコントロールできるように、自分の軸をしっかり持って、自他との境界をはっきり線引しておくことがますます重要になってきている。相手の要求が社会全体にとって善いものであって、自分がそれに共感できて、相手の要求に答えることが自分の喜びにもなるのであれば、そうしてあげるのはいいことかもしれないが、そうではない場合に、自分が相手の思い通りにしないからと相手が腹を立てたとしても、それは相手の問題であって自分の問題ではない。そういったことはただのわがままであり、それに応えるよりも、断るほうが、相手の学びにつながることもある。

)関連記事