20180821

軍歌のようなスポーツの応援ソングを見て

スポーツというものは、人の攻撃性や排他性を高めてしまうものなのだろうか。

知っている人は知っていると思うが、名指しはしたくないので避ける。数ヶ月前のこと、特に若者の間で人気のあるロックバンドが日本のスポーツ番組のテーマソングと同時収録された曲に、軍国主義的な思想を高揚しかねない歌詞が散りばめられ、ナショナリズムに傾いてしまったのではないかとネット上で一時騒然となった。

政権与党によって、戦前回帰とも思える法律が次々に強行採決されたり、国の権力を強化するような形に憲法を変更されようとしていたり、ネトウヨと呼ばれる人たちが社会での影響力を増していたり、外国人に対するヘイトスピーチがひどくなっていたり。こういった今の日本の状況を知っていれば、軍歌のような歌詞を書くことが危険だということは自明である。日本のナショナリズムを高揚させる歌詞に熱狂的になってしまう人や、この曲を利用してヘイトスピーチを繰り広げる人もいたようだ。

騒ぎから数日後に、曲を作った人は、軍歌のようだという指摘を受けて、もう一度、そうした視点をもって歌詞を見直し、たしかにそう解釈できるおそれがあると理解したと言って謝罪し、戦争を煽る意図はなかったというコメントを出していた。自分の曲のことを否定的に言われて、こういう対応はなかなかできないものだと思う。しかし、若者に人気のアーティストが権力側に都合のよい楽曲をつくってしまうと、権力側にうまく利用されかねないし、多くの若者にナショナリズム的な思想を刷り込んでしまうリスクも多大にある。社会に対するアンテナを高く広く張って、どういう影響をもたらしうるかを冷静な目で見る視点がなければ、自分が望まない結果につながりかねない。

以前にも、ある有名な女性アーティストが、スポーツの日本代表チーム関連の曲を発表した際、特攻隊を彷彿とさせる歌詞や、国のために命を捧げて戦うことを賛美するような歌詞が物議をかもした。その後のインタビューでは、そんなつもりはなかったのに、という感じで、戦前でもあるまいし、今のこの時代にそんなことを言われるなんて思わなかった、みたいな対応で、唖然とした。音楽ばかりやっていて、社会のことをちっとも見てこなかったのかもしれない。

国別対抗の試合では、対戦相手の国を憎む気持ちが生まれやすい。競技を通じて交流し、お互いのよいところを認め合い、高め合うのがスポーツの本来の目的だと思うのだが、自分の応援しているチームを「すごい!」と思いたいものなのだろう。サポーターが暴力的になってしまったり、排他的な発言や掲示をしてしまったり、ということも多い。自国の代表チームの応援の気持ちを高めるような曲を書こうと思うと、うっかり、こういう軍歌のようなものができてしまうのだろうか。

スポーツの結果を表す言い回しも物騒なものが多い。「倒す」「打ち負かす」「破る」「制覇」。英語も物騒だ。beat(=「破る」。もとの意味は「打ちのめす」)、defeat(=「破る」。もとの意味は「打ち負かす」)など、スポーツの言葉は、戦争の殺し合いで使われていた言葉が転用されていることが多い。こういう言葉ばかりを浴びて、自分でも使っていたら、対戦相手に対する敵対心が高まってしまうのかもしれない。

私もついつい、自分が日本人だからとついつい日本の選手を応援したくなっている自分に気づくことがあるが、それでも、まわりで日本チームがどうのこうの、という話になると、なんで会ったこともない人なのに、日本人だからってそんなに熱くなるんだろう、と不思議だった。日本の選手がシュートしようとしたのに、相手の国の選手がそれを阻止すると、「あいつさえじゃましなければ!」みたいな反応だ。試合なんだから、阻止するのが当たり前の話で、逆だったら、「あぶないところをうまくかわして、さすが!日本スゴイ!」みたいな反応になる。テレビがそういうふうにセンセーショナルに日本しか見えていない感じで報じているからつられているのかもしれないとも思う。

日本人どうしでも、勝ち負けになると憎しみが生じてしまう。ジャイアンツを応援していたら、タイガースの選手が大嫌いだったりとか…。友だちでもなんでもないのに、やけに入れ込んで、対戦相手のことを憎んだりって、気持ちは想像できるけど、それってどうなんだろうと思う。スポーツは見るのもやるのもあんまり好きではない。

日本のことは好きだし、愛着も感じる。自然環境を回復させたいと思うし、日本の風土と人々とのコラボレーションで生まれてきた素晴らしいものを大切にしたいと思う。先祖や、今の日本のために尽力してくださった方々が脈々といることにも感謝しているけれど、それは日本に限ったことではなく、外国から取り入れられて今につながっているものや、外国の方が尽力してくださったことも、知っているだけでもたくさんあって、知らないものも含めればきっと想像できないくらいたくさんあるんだと思う。そうしたことに貢献してくださった人たちにも感謝している。ご先祖さまと言ったって、元をたどれば、人類はみんなアフリカ大陸からやってきた、という説もある。そう考えると、国境に関係なく、みんなおんなじところからやってきた子孫。

日本という国に所属しているから、日本を身近に感じて、日本に親しみを覚え、「日本スゴイ!」「日本人スゴイ!」と思いたくなるのだと思う。だが、それ以前に、日本は地球の一部でもある。地球に所属していると思えば、世界全体を身近に感じて、日本以外に所属する人々にももっと親しみを感じられるのではないだろうか。そうすれば、どこの国の人が優勝しようと喜べる。だれかが決めた国境の内か外かで世界を区切らずに、自由な発想で世界を感じ、仲間を増やしていけると思う。

)関連記事