20130702

1本の電話

週2回お手伝いに行っている会社に入った1本の電話。
90歳の女性からだった。聡明で凛として素敵な人だった。

内容は、日本国憲法に関する本の提案だった。
それを提案する理由を実体験に基いて話してくださり、
憲法をもっと多くの人にじっくり考えてみてほしい
という思いからではないかと推察した。

女性は戦争で経験したことを、
今でも昨日のことのように覚えていると話してくれた。

結婚していれば疎開が許されたが、自分は結婚していなかったから、
戦争の勤労要員とするために東京から逃げさせてもらえなかったこと。
(当時、14~25歳の未婚女性は挺身隊として軍需工場などで働かされていたそう)

東京大空襲のときに戦火から逃れようと
隅田川に飛び込んだ人々の防空頭巾が、
空襲の翌朝にプカプカと浮いていたという。
味噌汁のシジミがその様子に似ていて
あの映像が蘇ってつらくなると言って、
女性の夫がシジミを食べられなくなったこと。

女性の夫は目が悪かったから飛行機に乗らないで済んだけれど、
目が良かった友人たちはみんな飛行隊になって、たくさん亡くなったこと。

戦争の体験を直接聞くのは初めてだった。
女性は憲法を変えてはいけないとも、
戦争をもう繰り返してはいけないとも、
自分の意見は一言も言わず、
つらかったであろう体験を
つらさも出さずに淡々と冷静に語ってくれた。

戦後、政府関連機関で外国の新聞をチェックして、
報告をする仕事に就き、その後も政府関連の通訳をしていたそうで、
当時受けたカルチャーショックの話も聞かせてくださった。

戦勝国のイギリスで、戦後初めての選挙の結果が、
これからは社会福祉の時代という結果になったことに
さすがは民主主義の国だと思ったこと。

欧米では女性に参政権があることにも驚いていた当時、
24歳になった年に初めて、女性の選挙権が認められて、
心からうれしかったこと。

他国の英語母語話者でない人々が、
英語が下手でも関係なく、
自分の意見を一生懸命伝えようとする姿に
下手でもなんでもいいから、
伝えること、聞くこと、その繰り返しが
お互いの理解につながるということを知ったときの感銘。

女性の話は、どれも心に響いてきて、
会社の人たちにもメールで少し伝えさせてもらった。
反響があってとてもうれしかった。そして、教えてもらったのがこの記事。
Book asahi .com「日本国憲法、コンビニに並ぶ 異色のベストセラー
編集者の島本脩二さんの想いにまた胸が熱くなった。

女性からの1本の電話。
ただの偶然ではないような気がした。