岩波書店の『世界』という月刊誌。読むたびに、みんなで考えるべき重大な問題を教えてくれます。その多くは、重大な問題であるにも関わらず、一般的なメディアではあまり大きくは取り上げられず、埋没してしまっているものです。
無戸籍問題についても、『世界』の11月号を読んで知り、今まで知らなくて申し訳なく思いました。
無戸籍問題というのは、女性だけに課されているいわゆる「300日規定」、
「離婚後300日以内に生まれた子は、前夫の子と推定する」(民法772条)のせいで、戸籍を持てない子どものことを指します。
たとえば、離婚後299日目に女性に子どもが生まれたとします。新しい伴侶との子どもであっても、この法律がネックになって、前の夫の子どもとしてしか出生届を出すことができません。
離婚にはさまざまな事情がありますが、新しい伴侶との子どもを、離別した前の夫の子どもとして出生届を出したい人が、どこにいるでしょうか?
紙の上の話だ、しかたあるまい、と割りきって前の夫の子として出生届を出す人もいるかもしれませんが、どうしても出せない事情のある母親もいます。出生届が出されないために、子どもが無戸籍になってしまう。これが無戸籍問題です。
ついでながら、女性だけに「200日規定」というのもあって、
「婚姻の成立の日から200日を経過した後に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」(民法772条-2)つまり、婚姻届を出してから200日しないうちに生まれた子は、結婚相手の子どもでないということになってしまいます。
では、子どもができてから婚姻届を出す場合はどうするの?と思ってしまう規定ですが、これだけ婚姻前に子どもができることが普通になってきている現代なので、こちらについては申請通りに受理されるようになっていて、あまり問題にならないようです。
では、無戸籍の人は現在日本にどのくらいいるのか?――現在、1万人+αと推定されているそうです。
戸籍がないとどうなるか?――かなり不便になることは想像に難くないと思います。
住民票がないので、給与の振込先の銀行口座もつくれない、マンションやアパートも契約できない、携帯電話を持つこともできない…。アルバイトでも何か身分証明を求められたりしますよね。就職も難しいということになり、貧困と直結してしまいます。
こんなおかしな法律のために、こんな不利益をこうむるなんて…。一刻も早く法律を変えてもらいたいですし、今現在困っている人を助ける制度も整ってほしいなと思いました。
父親を決めるのは、事実でも、DNA鑑定でも、愛があるかどうかでもなく、「国が決める」ということか、と、とてもおかしな制度だと思います。
この『世界』の記事にも、
「婚前交渉をして生まれた『ふしだらな(母を持つ)子』には父を与えない」という懲罰的規定が婚前交渉の抑止を生むと考えられた面もあったかと思うと指摘があります(ふしだらな男はどうなんだよ!とツッコミたくなります)。
先月、強制的夫婦同姓(あえてそう呼んでいます)は、違憲ではないという最高裁の判決が出て、とても残念ではありましたが、この「200日規定」と「300日規定」については、違憲の判決が出されました。これで無戸籍児童問題は解決に向かうかもしれません。
こんなに重大な問題でさえ、ようやく違憲判決が出たのですから、選択的夫婦別姓(あえて太字。別姓にしたかったら別姓も選べるし、同姓がいいなら同姓にもできるよ、ってだけの話なのに、「強制的夫婦別姓」と勘違いしている人が多すぎる)が実現するまでにはまだ道のりは長いかもしれません。
一歩前進できただけよかったのかもと思います。最高裁に女性の裁判官は3人しかいなかったというのも、女性の意見が反映されない要因の1つです。
ちなみに、夫婦別姓が選べないのなんて、工業先進国では日本くらいのものです。
国連の女性差別撤廃委員会は法改正を繰り返し勧告。別姓も選択できる制度を採用する国が増え、同姓を強制する国はほとんどないのが現状だ。―時事ドットコムより日本以外では、ジャマイカとインドくらいだそうです。
また、衆議院選挙のときに、最高裁判所の裁判官の国民審査もあります。重大な判決については、裁判官の名前をチェックしておいて、選挙の際の国民審査で「あかんやろ!」という人にバツをつけることができます。近年まで「誰が何を判決したかわかんないやー」
とノーチェックにしてしまっていました・・。
前回も、一票の格差問題で望ましくない判断をした裁判官にバツをつけましたが、今度選挙があったら、強制的夫婦同姓は違憲ではないと判断した裁判官にバツをつけようと思っています。やめさせることはできなくても、きちんと見ているんですよ、という表明にはなるはず。
この問題について、さらにくわしくはコチラ↓をご覧ください。
マガジン9:井戸まさえさんに聞いた(その1)「まさか、私の子が無戸籍に・・・」母の闘いはこうして始まった―「離婚のペナルティ」と、はっきり言われました無戸籍問題をテーマにしたミステリー小説もあるそうです。
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