20151119

「テロ」のこと

【旧暦神在月八日 立冬 金盞咲(きんせんか[=すいせんのこと}がさく)】

この前あるグループワークに参加しました。どんな生き方、働き方がしたいか、どんな生き方、働き方はしたくないかをシェアするというものでした。

そのときに、20代の方が「優しくありたい。優しくあるには、自分に余裕がないとできない。自分がまずは満たされている必要がある」とおっしゃいました。

また別な若い方が、「わるいことをする人というのは、よくよく事情を聞いてみると、それをしてしまうのがわかる事情や考え方がある」とおっしゃいました。

こういう感覚は、社会のいろいろなことを考えるうえで、すごく大事な見方だと思いました。こうした感覚があれば、なにか残忍なことが起こったときに、単純に犯人を見つけてやっつけるのではなくて、その根本の原因を探って、解決に向かうために行動を起こすことができるからです。

パリで残忍な同時多発テロ事件があり、とても悲しい気持ちでいます。欧米と日本のメディアを見ていると、「ISISのせいだ、あいつらを許すな、やっつけろ!」という論調が多く見られますが、ほかの多くの社会的な問題がそうであるように、この事件の原因にはさまざまなことが関係していて、ISISを絶やせば世界が平和になるというほど、単純な問題ではありません。本当の原因を見極めて、根本治癒を目指さないかぎり、ISISがいなくなっても、また同じ苦しみが繰り返されると思います。

私の意見は以下に挙げる2つの論説に近いです。
東京新聞 週のはじめに考える 9・11からパリ・テロへ

根本の原因は、志葉玲さんが記事で指摘されていることだと思います。
"何故、テロが起きるのか。IS的な過激思想に走る人間が出てくるのか。その根源には、「自由と民主主義」への絶望、そして憤りがある。空爆された市場で、猛烈な爆撃で地面ごとえぐり取られた民家跡で、血と膿と消毒薬の匂いただよう病院の中で、悲しみ、憤る中東の人々の、心が千切れるような絶叫を、私は何度も聞いた。”

日本を含めた欧米諸国は、自分たちがしていることを直視しようとしていません。以下の記事が象徴的です。
欧米からは完全に無視…“もうひとりのマララ”の悲惨な境遇(日刊ゲンダイ)
ストーリー:故郷追われた罪なき少女(その1) 無人機が奪った未来(毎日新聞)

中東の過激派に襲われたマララさんは世界の注目を浴び、救済されているのに対し、アメリカの無人偵察機に爆撃された罪なきナビラさんは無視され、家族みんなで苦しい生活をしている。ナビラさんのような人がほかにもたくさんいるのだと思います。なぜ、中東の過激派が犯した蛮行には注目が集まるのに、アメリカが犯している残虐な攻撃は許されるのでしょうか。アメリカ側は対「テロ」戦争といいますが、アメリカ側がしていることも「テロ」と全く同じに私には見えます。

中東の人々は、欧米が過去にした戦争、そして今もテロ撲滅を掲げての欧米諸国からの空爆で、ずっと悲惨で苦しい生活を強いられています。希望を持つことができません。彼らへしているひどいことを素直に謝って、お詫びをし、彼らが希望を持って暮らしていけるようにすることが、根本的な治癒だと私は思います。

「自分に余裕がないと優しくなれない」「わるいことをする人にも事情がある」―人生に絶望した人、心が壊れてしまった人たちが殺し屋になってしまう。私はテロをする人たちの心境、事情を想像すると―想像を絶するほどの苦しみと悲しみ―、その人たちのこともかわいそうでかわいそうで心が痛くなります。暴力はもちろん許されることではないけれど、欧米諸国も暴力をしている。復讐に復讐しても、もっとひどい復讐を生む悪循環になるだけです。

解決に向かうためには、真実と向き合うことが不可欠です。ロシアのプーチン大統領はISISの存在を支えているものについて、以下のように語っています。

・ISISの多くは雇われた傭兵で、賃金の高いところで殺し屋をやる
・その賃金の資金源は石油の販売による収益
と言われています。
(YouTubeに動画があったのですが、削除されてしまったので、文字起こしのリンクを付けておきます→

石油がISISの資金源であることはguardianにも過去に書かれています。
*Inside Islamic State’s oil empire: how captured oilfields fuel Isis insurgency

資金源を断つ、つまり、ISISから石油を買っている人たちが、石油を買うことをやめれば、もっと言えば、ISISから石油を買っている人たちから石油を買わないようにすれば、ISISの活動を大きく縮小することができるはずです。

では、ISISから石油を買っている人たちは誰なのか? プーチン大統領は、最近、ISISから石油を買っている国がG20を含む40カ国であることを突き止め、欧米諸国の首脳たちに知らせています。
*Putin: ISIS financed from 40 countries, including G20 members

別の記事で、プーチン大統領の側近が"ISIS is a byproduct of US policies in the Middle East.”ISISは中東におけるアメリカの政策の副産物だ)と述べていました

これは、ノーム・チョムスキー氏に関する映画で見たこととも共通しています。田中優さんの本「戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方」で読んだこととも共通するものがありました。

日本がすべきことは、アメリカと一緒に戦争をすることではなくて、まずは石油への依存をやめることだと思います(だから私はガソリン車を持ちたくないし、プラスチックや鉱物由来成分を含め、石油製品を使いたくない。有効活用されていない自前のエネルギー源を使うほうを選ぶ)。石油の魅力がなくなれば、資金源として役立たなくなるからです。そして、さらに言えば、中東を含め、世界で紛争や代理戦争の舞台となっている国や地域は、石油がたくさん出るところです。石油への依存をなくし、石油の魅力をなくしてしまえば、戦争をする理由がなくなる。これも真の平和へ向けた1つの非暴力的アプローチだと思います。

そして、国際社会は協力して、中東を無差別に爆撃するのではなく、苦しみのさなかにいる人たちの暮らしを一刻も早く楽にするよう協調し、憎悪の連鎖を率先して断つべきだと思います。その意味でも、日本は暴力を放棄し、暴力によって問題を解決しないという憲法を持っているのに、それを反故にすることは、憎悪の連鎖に加わることとなり、本当の平和からは退行するアプローチです。時間はかかることで、人権意識や支配的なシステムなどといった自分たちの未熟な部分と向き合って乗り越えていく苦しい毒出しもきっとあるでしょう。しかし、それは本当の平和と安全で快適な暮らしを実現するために必要な毒出しです。平和とは、与えられるものではなく、苦しくても、一人一人の在り方で創りあげていくものだと思います。