「東京なのに宇都宮、弁護士だけどけんじ」と、人の良さそうな陽気な年配女性にパンフレットを差し出され、宇都宮けんじさんのことを知ったのは、前回の都知事選の前だった。女性は「ありがたい顔してるでしょー」とパンフレットの写真を指差した。確かにアンパンマンのようなありがたい顔をしている。女性はファンの俳優の写真でも眺めるかのように、いかにもうれしそうだった。市民にこんなに慕われている政治家なんて初めて見た、と思った。
家に帰ってインターネットで宇都宮けんじさんのことを調べた。ヤミ金と戦い、宮部みゆきさんの「火車」のモデルになった、など、知れば知るほどすごい人だ!と思うようになり、本当に都知事になってくれたらと切望した。どんなにいい東京になるだろうと思った。前回の選挙では約97万票を獲得し、次点だった。
今回の選挙では宇都宮けんじさんのすごさをますます知ることになった。生き方、自分の命の危険も顧みずに弱い立場に立たされている人の救済のために奔走・奮闘する仕事への姿勢にとても感動した。しかもお金のためではない。ヤミ金と一社交渉して費用は2万円、相談者は生活困窮者なので月々5000円か1万円の分割払い。菩薩じゃないかと思った。
けんじさんはお金以上に大切なことを知っている。それが普通の人と一番違うところだ。脱原発も、脱被曝も、社会福祉の充実も、反貧困も、けんじさんの政策は全部、お金以上に大切なこと、すべてそれに根ざしている。心でそれを理解して、頭で具体的な政策に落としこんでいるところがすごい。心も、頭も、身体も強い。
2006年に放送されたプロフェッショナル仕事の流儀の録画で、黙々と土に向き合い、ミカンを作り、子どもたちを育て上げた両親を尊敬していると宇都宮さんが話すところを見て、はっとした。私の両親も黙々とリンゴを作って、お金はなかったけどちゃんと育て上げてくれた。高校まではお金がないせいで衝突することもしばしばで(体育で必修だったスキーの道具一式を揃えたり、修学旅行で必要なものを揃えたり、通学定期代など、なんだかんだでお金がかかるものだった)、親だから当たり前だとか、産んでくれと頼んだ覚えはない、なんて、ひどいことを言ったことを思い出し、恥ずかしく思った。
プロフェッショナルとは?という問いには、「弱者のためにとことんやる人、徹底的にやっている人だろう。もう少し広く考えれば、他人のために頑張れる、一生懸命仕事をやっている、そういうことなんだろうと思う」が答えだった。都知事になったら、庁舎に閉じこもっている知事にはならない、対話集会を開いて、都民の声を聞き、都政に反映させると語っていた。弱者のためにとことんやる、都民のために一生懸命仕事をする、そういう知事の誕生を願っている。
*宇都宮けんじさんについてネットで散見する誤報:
・細川さんが一本化を呼びかけたのに、宇都宮さんが突っぱねた→☓。毎日新聞が報じていますが、誤報です。これについては、細川さんサイドでも否定しています。
・光市母子殺人事件の加害者少年の弁護団に入っていた→☓。弁護団21人には入っていません。日弁連会長として、実名報道は少年法の定めに反していると述べたことが、どうやら歪曲されているようです。