20221026

[本紹介] 『旅する八百屋』(青果ミコト屋・著/アノニマ・スタジオ・刊)

『旅する八百屋』(青果ミコト屋・著/アノニマ・スタジオ・刊)を読みました。

『旅する八百屋』
(青果ミコト屋・著/アノニマ・スタジオ・刊)

青果ミコト屋さんは、自然栽培や有機栽培の野菜や果物を取り扱っている移動型の八百屋さんです。ミコト屋さんのことは、東京に住んでいたときに、何度かイベントでお見かけしたことがあり、ファンになりました。自由が丘のオーガニックコットンの専門店の店先でときどき小さなマルシェが開かれているときがあり、たまたま通りかかったらマルシェの日で、運良くおいしくて珍しいお野菜さんを買って帰れたこともありました。移住してからは遭遇できていなかったのですが、本に遭遇してうれしくなりました。

ミコト屋さんの屋号の由来は、この本を読んで初めて知りました。ミコトとは、「3つの誠」のことで、この「3つの誠」とは、「誠の言葉」「誠の行動」「誠の意思」を指すそうです。昔の人はこの3つが揃っていることを「みごと(見事)」と言い、3つともなっていないことを「みっともない(3つともない)」と言ったのだそうです。「まだまだみっともないぼくたちですが見事を目指していきたい」と書かれていました。ミコト屋さんは3つの誠の揃っている八百屋さんだと思います。

旅する八百屋さんになるまでのストーリーもとても興味深かったです。最初は自然栽培の農家になろうとして、農家のところで研修を積んだそうですが、圧倒的に商人優位で、作れば作るほど赤字になったり、報われないにもほどがあるような現状を目の当たりにして、新しい流通のスタイルを作る側にまわることにされたのだと理解しました。私も農家の方の現実は小さいときからよく知っているので、本を読んでいて、まさにそのとおりと思うところがたくさんありました。

新しい流通のスタイルを作ってくださったことは、買う側としてもとてもありがたいことだと思いました。作る人もハッピーで、地球もハッピーで、食べる人もハッピーな、そういうお野菜さんや果物さんが入手しやすいルートが増えるなることは、とてもうれしいことです。

ミコト屋さんは、大切にしたいことをしっかりと持ちながらも、二項対立的ではないところが素晴らしいと思いました。畑の数だけ農法がある、という表現が出てきましたが、野菜を育ててみるとまさにそうだと感じます。臨機応変に、様子を見ながら、土、空気、植物、天気、さまざまな要素と相談しながら、「こうかな?」「こうしたほうがいいかな?」と探っていく。完全に唯一の正解というのはないように思います。そういう柔軟性を持ちながら、大切なことは大切にし、他者の考えを尊重する姿勢もやわらかくて素敵だと思いました。

農家の人に会いにいく旅、食べる人に会いに行く旅、料理をする人に会いにいく旅…。さまざまな旅が詰まった本でした。農家の人と料理をする人と食べる人が一堂に会する場面もありました。人に会いに行く旅、人と人をつなぐ旅というのも素敵だなーと思いました。お野菜さんを食べるとき、旅をする気持ちで、かかわってくれた方々に思いをはせたいと思いました。