20220729

[本紹介] 『しあわせの牛乳』(佐藤慧・著/安田菜津紀・写真/ポプラ社・刊)

山地酪農の中洞牧場さんについて書かれた本『しあわせの牛乳』(佐藤慧・著/安田菜津紀・写真/ポプラ社・刊)を読みました。

『しあわせの牛乳』
(佐藤慧・著/安田菜津紀・写真/ポプラ社・刊)

山地酪農で「しあわせの牛乳」を生み出している中洞(なかほら)牧場の中洞正さんの生き方と、中洞牧場の牛たちの様子を、写真と共に描いています。児童書コーナーで見つけました。小学生の方でも読めるように平易な文体で読み仮名も付いています。大人でも読み応えがある内容ですが、大きな文字で物語のように書かれているので、たいへん読みやすく、気軽に読み始めることができました。

中洞牧場のことは、東京に住んでいた頃、自然食品店のナチュラルハーモニーのお店で初めて知りました。お店の方に詳しく教えてもらって、とても興味を持ちました。中洞牧場の牛乳を飲んだときの衝撃は今でも覚えています。すっきりしていて、温めてもくさみがなくて、本に書かれている通り、「本当に牛乳?」と思いました。

その後、中洞正さんが著された『しあわせな牛からおいしい牛乳』も読みました。山地酪農のことについて学ぶことができました。こちらもとてもためになる本でした。山地酪農のことや一般的な近代酪農の実際についてもっと多くの人々にも知ってもらえたらいいなあと思っていたので、平易で気軽に読めて、写真でもイメージがわきやすいこちらの本が新たに出版されたことをとてもうれしく思いました。

中洞牧場のことを知って以来、いつか行ってみたいなーとずっと思っていたので、こちらの本で写真をたくさん見させていただいて、行ってみたような気分が味わえたのもうれしかったです。写真の牛たちがとてもかわいくて、雪の中でも山道を歩く姿などはとてもたくましく、澄み切っていた目もずっと見ていたいくらい美しかったです。

中洞さんが牛に舐められて、痛いけどうれしそうな表情をしているシーンが描かれていました。牛の舌は草をちぎりやすいようにザラザラしているのだそうです。中洞さんと牛たちとの心温まる関係が伝わってきてとても素敵でした。

家で牛と一緒に暮らしている家が近所にも普通にあった子ども時代、近代酪農を学んだ高校~大学時代、山地酪農のドキュメンタリー映画との偶然の遭遇、山地酪農の牧場を軌道に乗せるまでの険しい道のり…。読んでいて、本当にすごい人生だなーと思いました。また中洞さんの芯の強さに感動し、とても尊敬を感じました。自分がやると決めたことは、まわりにどう見られようと、どんな困難に見舞われようと貫き通し、反対に、必然性が感じられないものについては、これからはそういう時代だとか、いくらまわりに勧められようと、強いられようと、自分で納得しない限りはやらないという、自分軸をしっかり持って、そこからぶれない姿勢を見習いたいと思いました。 

今に至るまでの道のりは、楽な道では決してありませんでしたが、幾多の困難を乗り越えて、牛たちも、飼う人たちも、牛たちが分けてくれる牛乳を飲む人たちも、自然環境も、みんながしあわせになる牧場のスタイルを築き上げてくれたのが本当にありがたいことだと思いました。 

中洞牧場のことを知ることができたのは、本当に幸運なことだったと思います。本来の牛乳の味というものを知ることができただけではなく、アニマル・ウェルフェア(動物の福祉)のことを考えるきっかけを与えてもらいました。牛をはじめ、鶏や豚、羊など、人間に食べ物や着るものを提供してくれている動物たちの生きている時間が幸せなものであってほしいと思うようになりました。こちらの本ではアニマル・ウェルフェアのことにも分かりやすく書かれていて、これからきっと、こっちのほうがいいな、と思う人も増えていくのではないかなあと希望を持つことができました。