20220303

芸術を生活のなかに

「ものづくり、されてるんですか?」

数年前、初めて入ったおしゃれなコーヒーショップで代金を払っていたとき、店主さんにかけられた言葉をときどき思い出す。

私のどこを見てそう聞きたくなったのかはわからない。小銭がないか財布のなかを探していると、不意に突然、さりげなく自然に、たずねられた。私はどう答えていいものか、迷ってしまった。

確かに、日々、ものは作っているが、自分で使ったり、プレゼントしたりするためのもので、これで生計を立てているわけではない。この店主さんはどう定義しているかわからないが、世間ではものづくりによって生計を立てていない限り、「ものづくり作家」を名乗ったら笑われるだろう。

『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』(内田樹・編/晶文社・刊)に、ミュージシャンの後藤正文さんが寄せた文章「君がノートに書きつけた一編の詩が芸術であること」を読んで、励まされた。