20220319

[本紹介]『ものは言いよう』(ヨシタケシンスケ・著/MOE編集部・編/白泉社・刊)

りんごかもしれない』『こねてのばして』などの絵本や、『ヨチヨチ父』などのエッセイをはじめ、様々な作品で知られる絵本作家のヨシタケシンスケさんの本『ものは言いよう』を読みました。

『ものは言いよう』
(ヨシタケシンスケ・著/MOE編集部・編)


てっきり、ものの言い方の本かと思って手に取ったのですが、ヨシタケシンスケさんについての本でおもしろかったです。絵本を出版するまでの道のりや、子ども時代のこと、学生時代のこと、最近の暮らし、好きな本などなど、さまざまな側面からヨシタケさんについて垣間見ることができます。ファンからの質問100にイラストで答えるコーナーはなんて大変な仕事をしたんだろう…と思いました(でもものすごくおもしろかったです)。

世間的な成功をここまで収めている人でも、ゴミ出しに行ったり、洗濯をたたんだり、生活は私とあんまり変わらないものなのかと少し驚きました(驚きつつ、それはそうだろーと自分にツッコミを入れたくなりましたが・・)。朝は絶望を感じて目が覚めるとか、私も「もうだめかもしれない」と思って起きることがよくあるので、私と同じだなーと思いました。世間的に成功してお金も十分にある人でも絶望を感じたりするものなのか、と意外でした。有名になっている人でも普段の生活とか感じることとかは多くの人々とそれほど変わらないだろうと想像することはあっても、ご本人の言葉で聞くとやはり現実味が違います。世間的な成功もおもしろいかもしれないけれど、普段の生活を自分が幸せを感じられるものにする工夫をコツコツ地道にやっていくことが大事だと思いました。

「絵本作家にナルニワ国物語」のコーナーも参考になりました。絵本作家になるための道のりについて漫画で描かれています。何か特別な近道が紹介されているわけではありません。極めて王道です。自分の好きなものをコツコツ作り続けて、コツコツまわりの人に見せたりして発表して、運がよければ、世の中の大勢の人のところに届けられる立場にある人(編集者とか有名人とか)の目に止まって、作品が世に送り出される、というまともで地道なものでした。

ヨシタケさん自身も、コツコツ絵を書き続けてきて、それを自費出版の形で発表し、最初は売れずに在庫がじゃまだからとまわりの人にあげまくっていたら、いつしか編集者の目に止まり、「絵本を出しませんか?」ということになってデビューすることになったそうです。ご本人の体験から導き出されているものだったので、なおさら説得力がありました。社会の多くの人々に自分の作品を送り出したいという希望があるなら、それを実現できる立場の人の目にいつか止まるまで諦めずに続けることだと思いました。

一番印象に残ったことは、ヨシタケさんが自分自身をありのままに受け入れられていることでした。ご自身のことをイラストでたくさん書かれていましたが、かなり客観的で、笑い飛ばしている感があります。子どものときにご自身の性格について「なさけない」と書かれていたのですが、「なさけない」からだめだと自分を責めているわけではなく、自分をありのままに肯定して受け入れて、自分に合ったことを伸ばす方向で努力されているのがすごいと思いました。私はついつい自分にダメ出しをしがちなので、見習いたいと思いました。

ヨシタケシンスケさんのことは、雑誌『暮しの手帖』の連載『みらいメガネ』で知りました(単行本化されていて1巻2巻があります)。荻上チキさんの鋭い視点の論考に、ヨシタケさんの、くすっと笑わせてくれて、視点を変えるのを助けてくれるような漫画が付いていて、毎号楽しみに読んでいました。ヨシタケさんってどんな人なんだろうと思っていたので、この本に出会えて本当に良かったです。

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