そのうちの1人が中吊り広告を読んでいて顔をしかめた。下世話な週刊誌の見出しが躍る中吊り広告は、汚らわしい言葉がたくさん並んでいた。わいせつな文言もあり、公共の場にこのような言葉があるなんてとんでもない、と思ったようだった。
私も東京に出てきたばかりのころは中吊り広告に驚いた。地元だったら「白色ポスト」(ポルノ雑誌が青少年の目に入らないように捨てられるポスト)に入れられているような雑誌の広告が堂々と電車の中にある。どうして公共空間にこのような卑猥なものがでかでかとあるのだろう。こどもや通勤通学の学生も乗っているし、こういうものが嫌いな人も乗っている。電車にこんな広告があったら、嫌でも目に入ってしまう。どうしてこんなことが許されているんだろうと思ったし、お金になればなんでもいいのか?と、こういった広告を採用する鉄道会社の姿勢も汚らわしい感じがした。ヨーロッパでは公共の場に、ポルノだけでなく女性の媚びた写真が存在しないらしい。イギリスからの留学生たちが日本に来て「ありえない!」という反応をしたのも頷ける。
地方に引っ越して、電車の中吊り広告にいやらしい文言が並ぶことはなくなったのだが、どのコンビニにもポルノ雑誌コーナーがあって、目のやり場に困る。だいたいATMのそばとか、トイレの横とかに置かれていて、どうしても通らないといけない。「成人雑誌コーナー」と赤い文字で表示があり、意図せずに見に来ないようにという配慮だとは思うが、逆に目立っていて、むしろ見るように誘っているようで逆効果だと思う。意図せずに見てしまうことを避ける目的であれば、レンタルビデオ店のようにそうしたコーナーはカーテンで仕切って、中に入らなければ見えない工夫をしたほうがいい。でかでかと大きな赤い文字で「成人雑誌コーナー」と書かれ、ATMやコピー機からの視界の範囲に性暴力を助長するような女性の写真や文言が入るように置かれているのは、コンビニからの嫌がらせに思えてしまう。友人の子どもは思春期に近づいてきて、母親を困らせるように「ねーねーあれなに~(ニヤニヤ)」と言うようになり、もう少し大きくなったら「オレ、あれ何か知ってる(ニヤニヤ)」と言うようになったらしい。私が親だったら、欲望をかき立てるだけの歪められた性を描いたものは子どもに見せたくないので、コンビニには子どもが自分でさまざまなことを判断できるようになるまでは一緒に行かないと思う。
日本の社会がいかに後れているか、嘆かわしく思っていたが、ついにイオン系列のコンビニ大手ミニストップが「成人向け雑誌」の販売を停止するという。ほかのコンビニも、せめて覆いをして見たくない人には目に触れないようにするなど、対応を検討してくれることを願いたい。
ミニストップ、成人雑誌販売中止 来年1月、千葉は12月1日から(「成人雑誌」「成人向け雑誌」という言い方には甚だ違和感がある…。成人全員を対象にしているわけでも、成人したら読むべき雑誌でもない。英語ではporn magazineなどと表記される。「ポルノ雑誌」となぜはっきり書かないのだろう)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017112101001231.html
この問題についてはSNSでも女性の人権問題を扱う弁護士さんなどさまざまなオピニオンリーダーが意見を述べるようになり、それを受けて一般の人々(主に女性)も声を上げるようになってきた感じがしていた。そのおかげもあるかもしれない。「コンビニよ、エロ本じゃなくおむつ置け」というコメントも見かけた。公共空間を含め、社会に対して何を望むのか、何を変えたいと強く思うのか、その声を無視せずに何らかの行動につなげていけたら、少しずつでも社会はいい方向へ動くのだと思う。