20170323

『人を見捨てない国、スウェーデン』を読んで

人を見捨てない国、スウェーデン (三瓶恵子・著/岩波ジュニア新書)』 。この本では、スウェーデンに暮らして30年以上になる日本人の方が実体験を交えながら、スウェーデンの法制度と暮らしについてわかりやすく解説している。
人を見捨てない国、スウェーデン (岩波ジュニア新書)

スウェーデンでは、男女平等に対する意識も民主主義に対する意識もとても進んでいて、生きやすさ、子育てのしやすさが日本より格段に上ですごくうらやましく思った。法制度の話と言っても、全然堅苦しい本ではなくて、ユーモアの効いたリアルなエピソードがちりばめられていて思わずくすっと笑ってしまう。たとえば…
特に金曜日に宿題を出すと親から大きな反発を受けます。休みは親子が一緒に何かするためのものだから、そんなときに宿題を出すのは言語道断である、とPTAで激しくつきあげられます(事情を知らずに父母会で、子どもたちが時間のある週末に取り組めるように金曜日に宿題を出せば? と発言してみんなから白い目で見られたのは私です)。(pp. 23-24)
この本によると、スウェーデンでは、子育て関連では以下のものが無料だという(公費でまかなわれる)。
  • 出産前の検診などを含めた出産にかかわる費用が全て
  • 小学校から大学までの授業料および入学金(私立もフリースクールも)
  • 高校までの教科書代と給食
  • ノートや鉛筆などの学用品の一部
  • 18歳未満の医療費(ちなみに、成人でも年間の自己負担額には上限があり、外来診療で約10,800円、医薬品代で約24,000円を超えた分は県が負担)
  • 20歳未満の歯科治療費(成人の場合は年間18万円を超えた場合には、超えた分の85%は社会保険庁が負担)
…などなど。メガネにも補助金がつく県が多いそうだ。

大学には返さなくてもよい奨学金がある(しかも入学金と授業料は無料)。日本には返さなくてもいい奨学金は民間のものしかないし、大学の学費は上がる一方だ。日本では、大学に行かなければまともな仕事にありつけないからと、国や県などから「奨学金」という名の学生ローンを借りて大学に入り、何百万円もの借金を背負って卒業しなければならないのに、大学を出たところでまともな仕事に就けるのはラッキーな人くらいだ。

スウェーデンには日本のような一発勝負の入試はなく、大学には何度でもチャレンジできる。基本的には学校の成績で決まるが、足りなければもう一度勉強し直したり、職業経験を積んでポイントを上乗せすることもできるそうだ。大人になってからでも、働きながら夕方のコースに通って足りない分を履修したり、職場にかけあって「教育休暇」を取り、堂々と昼間に勉強をすることもできるらしい。本人が望むのなら、何度でもチャレンジできる仕組みになっている。

スウェーデンでは「教育は国の仕事」と考えられているそうだ。日本の場合は、親の役目とか、本人の努力次第とか、自己責任で片付けられがちな気がする。スウェーデンでは、人こそが国の宝だと考えられているからこういう考え方になるのだろう。

こういう話をすると、「スウェーデンみたいにしたら税金が高くなるぞ、それでもいいのか」とすぐに脅してくる人がいる。

著者の方も、スウェーデンは税金が高いと書いていたが、所得税(28-62%)と付加価値税(消費税に相当。基本は25%だけど、食料品は12%、公共交通機関や文化関係は6%)のことしか記載がなく、ほかの種類の税金のようなものはどうなのんだろうと疑問に思った(*)。たしかに、日本は所得税だけを比べれば5-40%と、スウェーデンよりは安いけど、種類が多い。所得税のほかに、住民税(県民税と市町村税)、国民健康保険料、40歳以上は介護保険料、国民年金保険料、自動車税、固定資産税…。私の体感的には日本の税金っぽいものは収入の30%以上な感じがする。…が、しかし、恩恵を感じることはほぼ皆無に等しい。

たとえば、東京新聞の記事「<知らなくていいの? 税の仕組み>社会保険料にも不公平感  国民年金「定額制見直しを」」をもとに計算してみたら、月収15万円の人の税金と社会保険料の負担額が占める割合は約32%だった。車がないと不便な地方に住んでいる人だったら、これにさらに自動車税もかかる。国民健康保険料は地方によって負担額が異なっていて、もっと高い自治体もある(私のケースだと、東京の府中市から地方に移って高くなった)。

*気になったので、調べたら、県税にあたる「ランスティング税」が約10%、市町村税にあたる「コミューン税」が20%程度が平均とのこと。この他に国に払う税金もあるが、高収入の人しか課税されない。国への所得税を払っているのは、国民の15%程度、とのこと(参照:週刊現代2015.9.27「消費税25%でも、相続税はナシ! ゼロからわかるスウェーデン「超合理的な社会」のしくみ」

この本によれば、スウェーデンの人々は国に貯金をする感覚で税金を収めていて、恩恵がしっかり感じられているから、福祉のレベルが下がるくらいだったら税率を上げたほうがいいんじゃないの、という意見が多くなるらしい。

かたや、日本では税金が使われたくないものに消えていることが多い。そもそも、何に使われているのかもわかりにくい。日本では教育や医療など、福祉の充実を求めるとすぐに「財源はどこにあるんだ!」などと非難されるのに、トンネルを掘ったり、自然や人々の暮らしをぶちこわして道路を通したり、外国まで原発を売りつけにいったり、武器を買ったり、すぐに無用の長物になる建物を建てたり(最近の例では伊勢志摩サミットのために28億円かけて建てた建物を3日使っただけで3億円かけて解体:【参照】サミットで3日間だけ使用の建物に28億円+解体費3億円 外務省「安いと信じる」BuzzFeed Japan 2016/6/4)、そういうものには全く「財源は?」とかいう批判はない。

過去に東京都知事選挙に立候補された宇都宮健児さんの演説で知ったのだが、スウェーデンの国家予算は東京都の予算よりも少ない。東京都の年間予算は約13兆6000億円。スウェーデンの国家予算は約10兆5000億円(参照:「18歳からわかる! 都知事選挙」(宇都宮健児後援団体公式サイト内のブログ記事 2016.07.29))。東京都は本当はスウェーデン並みの高福祉が実現できるくらいの予算がある。お金は使いようだ。

読んでいて、なんて日本は情けない状況なんだろう、と思ったが、スウェーデンもちょっとやそっとのことでこんなに生きやすい国になったわけではなかった。

少子化が深刻になり、男女平等が大事だよね、という話が国会で出始めたのが1930年代。その後、男女平等を進める法律が次々に打ち出されたのが1970年代。じつに40年かかっている。そこから、今に至るまでが40年近く。それまでは男女平等なんてみじんもなく、女性は子のうちは父親に服従し、大人になったら夫に服従するものと考えられていたそうだ(日本は未だにそんな感じだけど)。

20世紀初めに育児休暇制度が導入されたときにはほとんどいなかった女性議員の数も次第に増え、今では国会議員の45%が女性、大臣も同じくらいの比率、公共部門の首長の6割が女性となっているという。

日本でも、特に3.11以降、このままじゃいかん、と思った女性たちが立ち上がり始めていて、命を大切にする政治を実現しようと政治に関わる女性が増えてきているように思う。身近でも地方議員になった女性たちがいる(しゃべり下手で小心者の私にはとてもできないことだけど、知り合いでも3人、地方議員になった女性がいて、彼女たちの勇気と努力を心から尊敬し、応援している)。

スウェーデンのように、すでにできている、という事例があるのとないのとでは、イメージのしやすさが全然違う。何から形にしていくべきなのか、どこから手をつけていったらいいのか、そういうことを考えていく上で参考にできる事例がすでにたくさんあるのは心強い。日本もこれから40年後にはもっと生きやすい世の中になっているかもしれない。少しでもその時期を早められるように、できることを地道にやっていきたいと思う。

近所の図書館に、スウェーデンの隣のフィンランドの本もあり、こちらも面白かった。

子どもと家族にやさしい社会 フィンランド

ちなみに、この本で特に印象に残っているのは、所得の再配分前と後(税金をとって社会福祉に活用することで不平等を是正する前と後)で子どもの貧困がどう変わるかを示した各国のグラフ。少し昔のデータだったけど、日本だけが再配分後のほうが不平等が拡大していて、何やってんだよ~と思った…。

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