20170320

自立した女性の夫を雑誌が「ご主人」と書くことに感じる違和感

書店で見かけるとつい手が伸びる好きな雑誌の1つの最新号に、知人が出ていたので読んでみたのだけど、彼女の夫のことが「ご主人」と書かれていて、その雑誌らしくない感じがした。

その雑誌は、環境に配慮した暮らし方に特化したライフスタイルマガジンで、フェアトレード製品の紹介なども多い。フェアトレードは、女性の地位向上とも密接な関係がある。環境や社会の面で比較的進んだ内容を扱っている雑誌なので、「ご主人」といった賞味期限が切れつつあるような(私のなかではとっくに切れている)言葉を多用するのが、とてもこの雑誌らしくなくて、残念だと思った。

「ご主人」と書かれていたのは、知人の夫だけではなく、数えてはいないけれど、インタビューで登場した女性で夫がいる人は、たぶんほぼ全部が「ご主人」だった。この雑誌のインタビューには、おしゃれなお店の経営者、ものづくりの作家さん、デザイナー、料理研究家など、さまざまな女性が登場する。自然体でキラキラと輝く女性の言葉を読むのはとてもわくわくするのだが、どう考えても自立していると思われる女性の夫のことが、決まって「ご主人」なのにはひっかかりを感じた。この女性と夫は主従関係ではないはずだ。

この「ご主人」という言葉のおかしさについては、ヨッセンスさんのブログのイラストが見事に表してくださっているのでぜひご覧ください。
コラム:「主人」っていう夫の呼び方にずっとモヤモヤ感があるよ。だってこの言葉……
「主人」と呼ぶ者たちにどんな人たちがいるかと言うと「召喚されたモンスター(下僕)、召使い、奴隷、ペット、妻」。明らかに妻は夫と対等なはずなのに、ペットや下僕のモンスターや奴隷と同列っておかしすぎると思う。

インタビューで女性の活躍が紹介された後、「ご主人の◯◯さんを会社へ送り出した後」「ご主人はナントカ作家で」「ご主人が育てた野菜を」(似た文例を作成。引用ではありません)などのように「ご主人」と書かれていると、この女性がしている仕事というのは、あくまでも家計の補助的なものでしかなく、「ご主人」の稼ぎがあるから不真面目でもいいような、本気ではないような、遊びのような、そういう軽いもののように見えてしまう。

この「ご主人」という言葉は、カネだけが人の価値を測るものだった時代に、男が外で働いてカネをとってきて、その稼ぎのおかげで生かさせてもらっているから(本当は家事も子育ても大事な仕事でおたがいさまのはずなのに)と妻に服従をするように刷り込むための言葉のような感じがする。

その価値観に立ってみても、仮に、逆に女が外で働いてカネをとってきて、夫が家の中で直接的なおカネにはならないことをしているとしても、女を「ご主人」、男を「家内」「奥さん」とは言わない(カネをとってくるほうが「主人」で。そうでないほうが下僕だとは思わないのでこんなふうにはならないでほしいが)。

たまーに、夫のことを「パートナー」と書いている記事を見つけると「おっ!」とうれしくなる。この雑誌にもたまーにあって、たぶん、取材と執筆を担当した人がジェンダーの意識をきちんと持っている人なんだと思う。編集サイドがそういう意識を持っていないと、校正のプロ意識で「表記のユレ」として「ご主人」に「表記統一」されてしまうのかもしれないが。

夫を「ご主人」と書いているのは、別にこの雑誌に限ったことではなく、むしろほとんどがそうだと思う。でも、この雑誌は先進的な特集が多いので、男女平等の面でも先進的であることを期待してしまう。男性読者にこびを売らなきゃなんないような雑誌だったら、夫を「ご主人」と書かないとけしからん、とクレームがくるかもしれなくて、そんな進んだ表現はできない、というのも理解できるけど、この雑誌の場合は女性の読者が多い雑誌だと思うから、「パートナー」と書いてクレームがつくことなんてないんじゃないだろうか。むしろ、自分は夫の庇護のもとでしか生きられないと思い込まされている女性のエンパワメントにもなると思うし、自立した女性には「よくぞ、〈主人〉を使わないでくれた!」と喜ばれるのではないだろうか。

雑誌をはじめ、メディアは社会をつくっていく影響力が大きいのだから、一歩も二歩も先を行くような優れた発信をして、社会をより平和で自由で愉しい場所にしていく力を出してほしいと思う。

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