20150812

堤未果さんの「社会の真実の見つけ方」(岩波ジュニア文庫)を読んで

【旧暦水無月廿八日 立秋 涼風至(すずかぜいたる)】

昼間は暑さで動けず、読書三昧の日々です。最近読んでよかった本を紹介します。
社会の真実の見つけかた(堤未果著・岩波ジュニア新書)

メディアに流されるとどうなるのかが9.11のアメリカを実例に克明に描かれた後、生の声と実体験をもとに社会の真実の見つけ方、そしてその活かし方が書かれています。希望が持てる本でした。



冒頭では、アメリカの9.11の同時多発テロが起こった際の世の中の様子を実例に、実体のない恐怖を肥大化させて戦争に向かわせるプロセスが、ドキュメンタリー映画のように展開されています。

戦争には莫大なお金がかかるので、教育や医療福祉、雇用対策などがどんどん切り捨てられていきました。犠牲になる教育現場のスタッフと子どもたち。膨らむ就学ローン(日本の奨学金も返済が必要なので本来はローンと呼ぶべきもの)を抱えながら、仕事が見つからない若者たち。貧しさから学業を続けられない子どもたちを甘い言葉でリクルートして戦争に送り込む仕組み。有権者の無知と無関心がこのまま安倍政権の暴走を止めなければ、近い将来日本で起こることを見せられているようでぞっとしました。

では、どうしたらいいのか?その具体的な方策も、実例とともに提案されているのが、この本の素晴らしいところだと思いました。それは、メディアを鵜呑みにせず、社会の真実を見つける努力をし、それを行動につなげていくこと。

社会の真実を見つけるには、
・できるだけ一次情報に近いものに当たる
・国内外の複数のメディアを比較検討する
・自分とは異なる意見を持つ人の話を聞くと、自分には見えていない面が見えてくる

などのアドバイスがありました。

一次情報にあたることの重要性は、堤さんご自身の取材経験も書かれていて、貧しい若者を騙して戦地に送り込むリクルーターに無性に腹が立ち、リクルーターに取材しに行ってみると、リクルーター自身も経済的徴兵システムに巻き込まれた貧しい若者で、ノルマを達成できないと自分も即刻戦地に送られるという状況に置かれていたことを知ったエピソードが書かれていました。

騙されて戦争に行かされる貧しい若者もかわいそうでしたが、リクルーターも愛する人たちと離れて戦地に送られる恐怖と、それを避けるためには貧しい若者を戦地に誘い込まなければならないという矛盾に、きっと苦しんでいたのだろうと、読んでいて苦しくなりました。かたや軍需産業は大繁盛、大盛況です。戦争は本当にむごい。絶対に起こしてはいけないのに、例えば、私たちの税金を戦争に使わせるという形で、私たちは加担させられているのが現実です。

社会の真実を見つけ、インターネット上で発信し、共感した仲間がつながってできた若者による教育改革組織や、学校からリクルーターを追い出した高校生たち、あきらめずに粘り強く政治に働きかけを続けるお年寄りたちの組織など、日本の市民にも大きなヒントになる実例がたくさん紹介されていました。

最後に、オバマ大統領に失望した若者が選挙にも行かずにいると、高齢のおじのマイクおじさんがこう語りかけます。
「幸せになりたきゃ選挙に行け」
(投票してくれないような人のための政策なんか考えるわけがないだろう、政治家に自分たちのことを考えさせる第一歩が投票に行くということなのだと思いました。)
「お前ら若いのは待つってことができねえ。俺たちは老い先長くないから絶対にあきらめない」
「当選させたら、手綱を離すな」
この言葉には私自身もガツンと言われたような感じがしました。地道にできることをコツコツとやっていきたいと気持ちが引き締まる本でした。先が気になって引き込まれる文章なので、すいすい読めます。若い方にぜひお薦めの一冊です。