ここ数年、LUNAWORKSの和暦日々是好日という手帖を毎年使っています。
この手帳の「はじめに」のところには、
「人間が時間を直線的にとらえるようになったのは、産業革命以降だといわれていますが、宇宙の惑星はそれぞれの周期を持ち、永遠に回り続ける時間を刻んでいます」
と書かれています。そして、
「効率を追い求め、成長や拡大を追求する直線的な時間の矢は還るところがなく、永続的ではないこと、最終的な幸福をもたらさないことに多くの人が気づき始めています」
と続き、さらに、
「『円環する時間』を意識することは、命のつながりを大切にする、本質的な豊かさにつながっているように思えます」
とあり、はっとさせられます。
この手帳は2021年版で18年目を迎えたそうです。美篶堂で手製本で作られていたり、環境に配慮した里紙を使用していたり、というところもうれしいです。開きやすくて書きやすいので、毎日、夜に一日の振り返りを書く手帖として使っています。予定の管理用は、グレゴリオ暦(西暦)のカレンダーで動いている他者や一般社会との予定を忘れないようにメモすることが多いため、西暦のものほうが使いやすいので、予定を書く手帖は別で用意しています。
予定用の手帖には西暦のものを併用しているせいもあるのか、和暦日々是好日を使っていても、気づけば直線的な時間の捉え方になり、「もっともっと」と成長・拡大を求め、「早く早く」と効率を求めている自分がいます。そんなときはとても苦しくなっています。体の不調や突発的な季節の仕事(たくさん筍が取れたとか、梅をいただいたとか)といった、あれをしよう(勉強とか練習とか作るものとか)と予定していたはずのことができなくなってしまうものに対して、ギスギスした気持ちになってしまったりすることがあります。体の不調は、自分がした何かの誤りや外部から入ってきたストレスによるダメージを補正してくれている時間だろうし、突然発生する季節のしごとも、自然からの恵みであって本来は感謝するはずの豊かさなのだと思います。それなのに、感謝できずに焦ってしまう自分がいて、「あれを進めようと思っていたところなのに、なんで今?!」と癇癪を起こしたくなったり。
そういうときはこの「はじめに」の言葉をもう一度読み返して、「円環する時間」を思い出す必要があるのだと思います。日々、仕事の締切があったり、いつまでにやると決めた期日があったりすると、円環している無限の時間ということを忘れて、有限な期間を意識してしまい、その期間内にいかに効率よく成長し、日々の作業を多くこなすか、という思考パターンに陥ってしまいます。すると、親しい人々との会話も、空を眺める時間も、鳥たちの声に耳を傾ける時間も、そこにこそ、この地球で生きる豊かさと喜びが存在しているというのに、無駄なもののように思えて苛立ったり、焦ったりしてしまうのだろうと思います。
朝が来て、昼が来て、夕方が来て、夜が来て、明け方が来て、と1日がめぐり、春が来てツバメが南の国からやってきてうぐいすが鳴きはじめ、夏が来てセミが鳴きはじめ、秋が来て虫の声がにぎやかになり、セグロセキレイが庭に遊びに来たり、高い空に百舌鳥の声が響き渡ったり、冬が来て夜の庭がしんと静まり返り、キンと冷えた夜空にオリオン座がはっきりと輝いていたり、冬が終わりに向かうにつれてキジの声やヒバリの声がよく聞こえるようになり、と1年がめぐります。花々も、もくれん、梅、桜、ツツジ、ハナミズキ、ヤマボウシ、藤、バラ、あじさい、サルスベリ、ハス、キンモクセイ、萩と順々に咲いてめぐり、目を楽しませ、時には鼻腔をくすぐります。春の筍、夏のトマト、秋の果物にかぼちゃにさつまいも、冬のゆず、他にもたくさんある旬の食べ物も、季節ごとにたくさんの喜びを与えてくれます。
少し思い起こしてみるだけでも、美しいもの、うれしくなること、おいしいもの、幸せを与えてくれるものがたくさんあります。そうした時間の循環を五感で味わい、気づきや発見を重ねていくことが本当に豊かな時間の過ごし方で、それができるようになったら、早く早くと焦らずに、穏やかな心で日々を過ごせるようになるような気がします。
そんなことを考えていたら、John LennonさんのWatching the Wheelsという曲を思い出しました。Wheelsは観覧車のこと。ただ観覧車が回るのをみて過ごしていると、異常だ、怠け者だなどと人々に言われ、もっと有意義に時間を使うようにと警告や忠告を受けるけれど、ただ観覧車を見て過ごすのが好きで、それで全く問題はなくて、ただ時間を過ごしているのだと、それでいいのだというような歌です。Acousticというアルバムに入っていてとても気に入っている曲の1つです。もうメリーゴーランドには乗らないという歌詞もあって、メリーゴーランドが象徴するものは作られた消費するだけの楽しみ、あるいは、乗っかれば幸せが手に入るとされているコースとかかな、と思いながら聞いています。これに対して、観覧車はめぐりゆく一日や季節にも置き換えられるような気がします。1日の移り変わりを、1年の変遷を、そのなかで繰り返されるさまざまな美しい景色や喜びを、ただただ眺めているだけでは、世間的には狂気の怠け者に映るのかもしれませんが、それでも、成功や富や名声を求めてあくせくしなくても、そこに幸せがあるのですから、それをただ味わうだけで、きっとよいのだと思います。すでに身近にあふれている幸福や美しさや豊かさに気づく感性も稀有で大切な力なのだと思います。
寸暇を惜しむように技術や能力を成長させようと努力することも大切かもしれませんが、人間的な成長は、それだけでは達成できず、こうした日々のめぐり、季節のめぐりを感じながら、暮しを巡らせる中でいつの間にか得られているものなのだろうと思います。人間的な成長は直線的に高めようと求めれば求めるほど遠のくものなのかもしれません。
ちなみに、2022年版ももう発売されています。
LUNAWORKS 和暦日々是好日 2022年版 (こちらはカバーなし。カバー付きもあります) |