20220217

[本紹介]『イヌイットの壁かけ』(岩崎昌子・著/誠文堂新光社)

『イヌイットの壁かけ―氷原のくらしと布絵』(岩崎昌子・著/誠文堂新光社)を読みました。

『イヌイットの壁かけ―氷原のくらしと布絵』
(岩崎昌子・著/誠文堂新光社)

以前、ときどき行く自家製天然酵母のパン屋さんに教えてもらったカフェに立ち寄ったことがあります。陽気な感じのそのカフェの本棚にこの本が飾られていて、とても興味を引かれました。その後もずーっと気になっていて、時おり思い出すことがありました。そのくらい、表紙の壁かけが印象深い作品だったのだと思います。

図書館の芸術書コーナーでこの本と再会したときは「わー!あのときの本だ!」と感激しました。すぐに借りてきて読みました。

紹介されているのは、カナダに住む先住民族のイヌイットの人たちが手作りした壁かけです。布と糸で暮らしのひとこま、季節ごとの暮らしや風景、動植物や人間の営みなどがユーモラスに描かれています。刺繍糸で丹念に模様が縫われていたり、どれもとても時間がかかるだろうなあと想像しました。

著者の岩崎さんはこうした壁かけ作品と1970年に出会い、それ以来、30年以上の間、1枚1枚集められ、109枚ものコレクションができたそうです。素敵なコレクションを見せてもらえて、創作の原点について思いを巡らせるよい機会になり、とてもありがたく思いました。

岩崎さんのあとがきによると、イヌイットの女性たちは厳しい寒さから家族を守るための「パーカ」と呼ばれる防寒服を作っていて、そのハギレで布絵を作るようになったそうです。今は生活協同組合の縫製センターで専業の女性たちがパーカをミシンで縫っているそうですが、ミシンもない時代は、各家庭で女性が手でひと針ひと針毛皮を縫って作っていたそうで、「こんなにつらい仕事が続くなら、私はいっそ海の魚になってしまいたい」というイヌイットの女性のうたも残されているそうです。その気持ち、とてもよくわかる気がしました…。

手元に置いて時おり読み返したい1冊でした。