夕方散歩の帰り道、野川にかかった橋にさしかかると、川岸に白鷺がいた。私はよく見えるようにと、橋の脇の歩道に周った。
白鷺を眺めていると、「ちょっと、失礼」という声がした。
男性が私の足元にあったタバコの吸殻を火箸で拾おうとしていた。
「あ、ゴミですか、すみません」
私がよけると、彼はその吸殻を拾って素早く左手のスーパーの袋に入れた。白鷺に目を奪われて、足元のゴミは目に入っていなかったが、そういえば来るときにタバコを吸っている男がいたことを思い出した。路上にはほかにもタバコの吸殻、菓子の空箱、ビニール袋が落ちていた。
「結構あるものですね」
「世の中、生まれと育ちのわりぃ奴が多いから」
男性は手慣れた様子で、ゴミを袋に集めていった。その手つきから、きっと毎日のようにゴミを拾っているのだろうと思った。
「生まれも悪けりゃ、育ちも悪い。困ったもんだ」
男性はそう残して、ゴミを拾いながら、橋を上っていった。私は歩道を出て、家に向かって坂を下った。
男性の言葉は、ゴミを捨てた人の人間性そのものを否定しているのではないと思えた。行為を罵っているのでもなかった。その人の運命を残念がっている言葉だった。その人の更生を願いつつも、期待はしていない。
私にも拾えと言いたげな気配など微塵もなかった。ゴミを拾っていたのは、そこにゴミが落ちている、ないほうがいいから拾う、ただそれだけのシンプルな理由からなのではないだろうか。いいコトをしているつもりでも、優越感に浸っているのでもないのだろう。
男性の後ろ姿を思い出す。
「生まれも悪けりゃ、育ちも悪い。困ったもんだ」
力のある言葉だった。