20150706

『チョムスキー 9.11』を観て

【旧暦皐月廿一日 夏至 半夏生(はんげしょうず)】

2003年に製作されていた『チョムスキー 9.11』というドキュメンタリー映画。

安倍政権が強引に集団的自衛権の行使容認について審議が進められるなか、6月16日から21日まで無料でYouTube上で限定公開されていたので、視聴しました。一緒に戦争をする可能性の高いアメリカが、どんなふうにして戦争を作ってきたのかを、知っておく貴重な機会になりました。

特に印象に残ったところを備忘録として残しておきたいと思います。あくまでも私の記憶なので、少し変わってしまっているところ、ニュアンスの異なってしまっているところがあるかもしれませんが、何もないよりは、何か考えるきっかけ、調べるきっかけ、行動するきっかけにつながったりもするかなーと思ったので、公開します。( )は私の感想・コメントです。

・知識人は事実を知りながら言わないようにしつけられている、このことは西欧や日本でも顕著。

・アメリカは石油に関心があるから戦争をしかける。(→『おカネで世界を変える30の方法』などでも読んで、よく指摘されることだけど、アメリカでもこう指摘する人がいるのかーと)

・国民を服従させるには恐怖を利用するのが最も簡単。ブッシュのスピーチライターが「悪の枢軸」(axis of evil)という言葉を作ったのは、国民の恐怖心を利用するため。(身近なところからも、あらゆる恐怖心を克服していくことが、ぶれずに平和を貫く第一歩かも)

・「悪の枢軸国」という言葉で、アメリカ人が思い浮かべるのは、第二次世界大戦中の日独伊の三国。三国あるとよりイメージが合致するので、イラン、イラク、北朝鮮を悪の枢軸国に仕立てあげた。北朝鮮との敵対関係を作ると、韓国と日本は困るが、アメリカが知ったことではない。

・「対テロ戦争」なんてものはない。アメリカが最大のテロ国家である。

・9.11の攻撃は、大変な惨事ではあるが、歴史上、新しいことではない。アメリカも同じようなことを他国でやっている。規模ではなく、どこで起こったかが、取り上げられ方を左右。

・世界の残忍で抑圧的な権力が、9.11の事件をいいように利用するだろうということは十分に予測できていた。(日本は平和憲法の改訂に向かうかもしれないとも指摘されていた)

・我々はみな、なんらかの形で戦争に加担している。自分たちの払った税金で、人殺しが行なわれている。

・中東の緊張緩和策として、国際機関の観察官(モニターと言っていた)を派遣し、卑劣な行動を監視する案を、国連にEUが提案。これは効果的な策だったが、アメリカが拒否権を発動してこれを阻止。(アメリカはやっぱり戦争したいのか)

・ブッシュの大好きな聖書にも「偽善者は、他人に適用する基準を自分に適用しない人だ」と書かれている。他国への攻撃はよくて、自分が攻撃されるのはだめ、と言うアメリカ。鏡に写った自分を見つめるのは難しいことだが、自分をしっかりと見ないといけない。

・それでも、過去よりも着実に、アメリカは良くなってきている。市民運動が大きく成長し、かつてほどの政府の蛮行が許されなくなってきている。
※この映画が作られた当時、南ベトナムにアメリカが戦争をしかけてからちょうど40年だった。30~40年でアメリカの市民運動が成長。当時は、女性と子どもが歩くだけの反戦抗議デモですら、缶やトマトが投げつけられた。抗議集会や講演などは開くことすらできなかった。反戦運動ができたのも60年代、環境運動ができたのも70年代。今では市民運動が政府の蛮行を許さないくらいに成長。これは大きな変化。(日本も、3.11をきっかけにようやく市民運動が芽生えたように思うので、30~40年でどう大きくしていけるだろうか)

・身近なことから変えていける。投獄されたり、暗殺されたりする心配もないアメリカで、可能性は無限大。何かを維持しよう、あるいは、何かを変えよう、とする行動は、それがモラルに基づくものであれば、人間の本質的な性質を引き出し、拡大し、表現する可能性を与える。

・アフガニスタンをアメリカとロシアが破壊した。攻撃するのではなく、賠償をすべき。

・メディアを政府がコントロールするのではない(アメリカの話)。メディアの決断。
※わかりやすい具体例:パレスチナの住民がイスラエルへの抗議として投石(インティファーダと呼ばれる)を始めた2日後、イスラエルはアメリカのヘリコプターでパレスチナ住民の制圧を開始。クリントンはもっと多くの軍用ヘリを送り、何十人もの住民を殺した。これを報じたのは、小さな町の新聞にあてた投書だけだった。政府に言うなと命令されたわけではなく、報じないことを決めたのは、メディアの編集者。(→情報の受け手が何を求めているか、どんなことを報じれば視聴率が上がるか、ということを意識している、ということなのかな?と)

・資本主義が完全に実現すれば、経済を破壊する。このことを資本家は知っていて、資本主義の完全な実現を求めてはいない。(→リーマン・ショックやサブプライム危機などが起こる前にすでにこの指摘がされていた)

内容が多岐にわたって、なかなか難しく、歴史が教えていることや、今の政治的指導者と、過去の政治的指導者とで、蛮行を正当化するのに利用する言葉の類似点など、具体的な事実までは覚えきれなかったのですが、歴史は確実に繰り返していて、まだまだ学んでいないことが多いんだなぁ、と思いました。時代は確実に良くなってきているし、私たちが社会を良くするためにできることは無限大だという、前向きに考えられるメッセージで、未来を明るく思い描けました。なにもかも、自分たち次第なんだと。

こんなに歴史的背景も含め、幅広い知識を整理して、いま起こっていることの背景を分析し、明快に説明できる人はなかなかいないと思います。日本の改憲の動きや、資本主義のことなど、予測がずばり的中しているものもありました。何をしていくべきなのかを知るために、何が起こっているのか、その原因やメカニズムは何なのかを知っておく必要がありますが、そうするためのかなり貴重な情報と洞察を提示してくれていると思いました。もっと勉強させてもらいたいです。素晴らしい学者さんだと思いました。

ノーム・チョムスキーの名を初めて知ったのは、大学で生成文法を習ったときでした。難しすぎてちんぷんかんぷんでしたが・・・。なので、チョムスキー氏=言語学者とインプットされていたので、社会のことについて鋭い批判をしているのを知ったときは意外でした。映画の最後で、なぜ言語学を研究しているのかを聞かれて、人間の高度な能力に興味があり、人間の能力を凝縮した領域の1つが言語だったと答えているのを聞いて、なるほどー、とぐっときました。ある哲学者(名前を忘れました)もモラルの根底にあるものは今でいう「生成文法」であると言っている、ある一定の制限のなかで自由に表現し、創造していく、と語られているのを聞いて、言葉を学んでいる者の一人として、うれしく思いました。言葉の奥深さがますます好きになりました。

映画の構成についてですが、ある程度知識レベルの高いアメリカ人にとっては常識なのだろうけれど、日本人にはぴんと来ない歴史的出来事や、他国との関係などが次々出てきていて、再生を一旦停止しながら、ネットで検索しつつ、視聴しました。欲を言えば、日本人向けに、背景の解説がコンパクトにわかりやすく適宜入っていると、すんなり理解できていいのだけどなー、と思いました。やや消化不良な感じなので、時間を見つけて、ほかの映像や本などでも勉強したいと思っています。